1993年、ファッションブランド「HYSTERIC GLAMOUR」から刊行され、ファッション×アートのクロスオーバーの先駆けとなった、森山大道の写真集『Daido hysteric no. 4』。90年代の新宿を切り取ったストリートスナップは、約30年の時を経てタイポグラフィと結びつき、“街の語彙”を示す小さな辞書へと姿を変えた。フィリピンはセブ島出身のデザイナー・Myka Arnadoの文字を添えてポスター化、さらにそのビジュアルをTシャツへ落とし込むことで、写真はふたたび街へと還る──。都市を歩き断片を拾い上げてきた巨匠は、このコラボレーションをどう受け止めたのか。企画の背景とともに話を聞いた。

─『Daido hysteric』は森山さんにとってどんな作品でしたか？　当時の新宿をいま振り返ると？
森山大道（以下、森山）　縦位置写真のNo. 4と横位置写真のNo. 6の2冊が形になったとき、「そのとき自分が撮っていたものがこんな形になったんだ」というリアルな実感があったね。いま見返すととても懐かしいし、改めて当時と今を比べてみると新宿のリアリティを感じるよ

─写真と言葉を重ねて“辞書”に見立てるという企画をどう思いましたか？
森山　仕上がりを見て、文字ののりかたが面白くてとてもいいと思ったよ。自分の撮ったイメージがTシャツになって、もう一度街に出る。それは素敵なことだと思う

─5種のグラフィックの中で、とくに化学反応を感じた1枚は？
森山　直感で言えば“Chain”だね。どれか1枚着るなら、これを選ぶかな

─Tシャツという“動くキャンバス”にのることで、写真はどう変わると思いますか？　また、これらのアイテムを着る人にはどう楽しんでほしいですか？
森山　写真が街に還るわけだからそこが面白さだと思う。誰が着てくれてもいいけど、着た人も「面白い」と思ってくれればそれがいちばんだよ。形や素材については詳しくないけど、自分の写真がTシャツになるのはやっぱり嬉しいね

─いまでも路上撮影は続けていますか？　1日に切るシャッターの枚数や撮り方、惹かれるモチーフなどは昔と比べて変わりましたか？
森山　若い頃は100メートル歩けばフィルム1本分撮ったりしたけど、いまは良くてその半分くらいかな。けれど撮り方は変わらないよ。撮りたくなるモチーフも昔から変わっていない

─これから挑戦したい題材、あるいは写真家としての目標をひとつ教えてください。
森山　いくつになっても、1枚でも多くの写真を撮りたい─その気持ちは変わらないね