絵を描くまでのプロセスこそ
僕のオリジナリティ。

グラフィックアーティスト、矢入幸一の作品の一番の特徴といえば、アメリカの古いアニメーション映画のワンシーンを切り取ったようなような独特のタッチと世界観。一見、ポップで懐かしいこのデザインの裏には、どんな意志やメッセージが込められているのだろうか。共同制作したコラボレーシ ョンアイテムを通じて、彼の作品にかける情熱やこだわりを紐解いていく。

─矢入さんといえばオールドカートゥーンスタイルのタッチが特徴的ですが、これらはどのように生まれたのですか？
矢入幸一(以下Y)　昔から『トムとジェリー』のような古いアニメーションやブラウン管のノイジーな質感が好きで、それらが合わさってできたのがこのスタイルです。僕はもともとグラフィックデザイナーをやっていたんですが、当時コピー機を使って絵を描いていたんですね。藁半紙に絵を描いて何度もコピーを繰り返すとザラザラした質感の絵になるんです。ただ、それだけではどこか物足りないなと感じて、さらに絵の上にキャラクターをペイントして生まれたのがこのスタイル、というわけです。

─今回のコラボレーションアイテムにも、矢入さんらしさあふれるオールドカートゥーンスタイルの絵が描かれていますね。
Y　今回は日常で身につけるアパレルでの表現ということもあって、僕らが日々の生活で目にするようなシーンを描きました。主役は僕がいつも描いているゴースト。キャップをかぶっていたり、コインをトスしていたり、見た人が親近感を覚えるようなエッセンスを散りばめています。そのほうが愛着を持って着てもらえるんじゃないかなと思ってデザインしました。

─矢入さんといえば、さまざまな技法を組み合わせる制作方法も大きな特徴ですよね。今回のコラボレーションでは、インクジェットプリントと刺繍の組み合わせにチャレンジしましたが……。
Y　僕は“技法のコラージュ”と呼んでいるのですが、この制作プロセスは普段の制作でも強く意識しています。たとえば、キャンバスの上にインクジェットプリントをしてその上からペインティングやスプレー表現などを重ねると、質感や表現に変化が生まれるんですね。その変化の差で、モチーフを強調したり抑えたりしているんです。今回のコラボレーションでは、インクジェットプリントの上にそのまま刺繍をするとシワができたり場所がズレたりといったアパレルならではのハードルもあり、非常にチャレンジングでした。最終的にはワッペンを縫いつける仕様に落ち着きましたが、イメージ通りに仕上がって嬉しかったです。

─実際にイチから制作に携わってみて、アパレルはアート表現の媒体としてどんなものでしたか？
Y　着ている人の日常にアートが溶け込むこと、そして「僕はこういうのが好きなんだ」という主張にもなるのがいいところですよね。もちろん、前述のようなアパレルならではの難しさはありましたけどね。僕は普段、黒か白の服しか着ないので、今回のコラボレーションアイテムはたくさん着れそうでよかったです(笑)。

─最後に、矢入さんらしさ、オリジナリティの本質はどんなところにあるのか教えてください。
Y　技法や絵のタッチではなく、絵を描くまでの思考のプロセスこそが“僕らしさ”じゃないかなと考えています。普段作品を制作するときは、テーマを設けて一連のストーリーを考えた上で、最もテーマを象徴するシーンを切り取るように描いているんですね。このプロセスの根底には、切り取られたシーンだけでなく、その前後も想像してほしい、というメッセージがあるんです。前後関係や背景など、さまざまな視点で物事を考えてこそ、本質が見えてくるんじゃないかなって思うんです。とはいえ、小難しくしたり堅苦しくしないようにというのも大事なこと。人に好意を持ってもらってこそ、メッセージは伝わるものですから。