“物質としての人”をテーマに
ただそこにある存在を描く。

モノクロームの線の重なりで三次元的な奥行きを表現し、錯視のような視覚体験をもたらすAICON(アイコン)のアート。ミニマルで無機質な線の集合の中に有機的な躍動感をも感じさせる彼女の作品には、どのような意思やメッセージが込められているのだろうか。ともに制作したコラボレーションTシャツを通じ、その世界の深淵に触れる。

─まずは、AICONさんを象徴するモノクロームの作品がどのようにして生まれたのか、お伺いしたいと思います。
AICON（以下A)　縞模様の作風のきっかけになったのは、物理学者・大栗博司さんの「超弦理論入門」という本。この宇宙がどのように誕生したのかを、素粒子などミクロな視点で研究している理論物理のお話なんです。難しい話だから全然理解はできていないけれど、宇宙や私たちを構成するミクロの物質世界が摩訶不思議で面白くて。頭が柔らかくなってイマジネーションが掻き立てられたんですね。

──この宇宙を構成する物質世界と人間の対比は、さまざまな視点で見方が変わるAICONさんのアートに通じているわけですね。作品を通じてどんなメッセージを伝えたいと考えていますか？
A　人々がこの時代を生きていく上で、“シンプルさ”に立ち返れるツールになれたらいいなと思っています。対人関係や世間体、社会性、知識や教養、新しい情報や価値観などを日々模索している私たちは、慢性的にものすごいエネルギーを消費しているはずなのに、当の本人は疲労が蓄積していることをしっかり認識できていないと思うんです。さらに、生きる意味や意義まで求めて、とてつもない負荷がかかかっているな、と。それは人間だからこそできる行為で尊いものだとは思うのですが、根底にはやはり“シンプルさ”を留めておきたいなと考えているんです。

─創作においてこだわっていることはありますか？
A　こだわりというか、制作は自分なりの価値観をずっと模索している感じです。というのも、ずっと描いていると主観的になりすぎてしまって何が良いのか何がダメなのか、わからなくなってしまうんですね。なので、出来上がったものに対して自分の世界観にハマ っているかのジャッジはこだわっているかもですね。時間をかけて描いたからもったいないなと思っても、やっぱりナシだなとなってボツにすることも多々あります

─今回のコラボレーションTシャツで表現したものは何ですか？
A　今回に限らず、私の制作のテーマが“物質としての人”なんです。物質というのは無機質なものだから、人物の表情も何を考えているのかわからない感じで描く、ということを意識していて。ただそこに存在している人物、意味を必要としないものとして描いています。

─AICONさんがこのアイテムを着るならどう着こなしますか？
A　ベージュのTシャツならライトグレーのパンツに合わせてスモーキーな感じに、オレンジのTシャツならベージュのジャケットに合わせてヨーロッパ感を出したいなあとか考えています。白は何にでも合うけど、やっぱりモノトーンのコーディネートがいいですね。普段は、似合う・似合わない関係なく、気分で着たい服を着ています。

─アパレルはアート表現の媒体としてどんなものですか？
A　プリントTシャツはカルチャー色とかメッセージ性の高い媒体だから、アートとの相性は良いと思います。ただ、作品として鑑賞するのとアパレルに落とし込んだものは圧倒的に見え方が違うんですよね。作品として良くてもアパレルだと映えないパターンは多くありますし、逆も然り。だから、双方のコンセプトや背景をすりあわせながら作っていけたらいいなと思っています。